僕の為の僕の妄想で、幻聴かもしれないと一瞬は思いました。
僕はなんて言われたんだっけか
呼ばれたんです
上を向いて、手を添えて、目を閉じて、一瞬息を止めていた時に。
物音に気付いて意識を傾けた方から
「急用だから、出てきてもらっていい」と声がしました。
幻聴ではなかった。わかっています。
その時いよいよ僕の餌になっていた者の声だった。
僕はそのまま、顔だけ出して、
風呂まで来て何です、何をそんなに急ぐんですか
と言いました。演技みたいに。
僕からしたら、酷いような、ありがたいような、
愚直で回りくどい軽い罰みたいでした。
彼は見慣れない容器、液体の入ったスポイトみたいなものを手に持っていて、
そんなに急いでるような感じでもなく、それを僕に差し出しました。
植物に肥料をやり忘れていた、みたいな顔をして。
急いでいるように見えなくても急いでいたんだろうな
ここまできたんだから
これでも彼には僕が必要ではあるはずだから
僕はそれをつまんで受け取って、そのまま彼の顔を見ていました。意味がわからなかった。
彼は痺れを切らしたように話し出しました。
「もう、動けなくなる直前なんでしょ」 僕には、彼が焦ってることがよくわかりました
そしたら少し笑える気がしたけど、笑わなかった。僕は彼にどう接するべきかわからないから。
正直、僕は先程まで考えていたことの切れ端でも、使って、この分野において、何かを先に進められたらと思っていた。
ここでこれを飲むことと飲まないことは未来を分ける。 彼は僕が何か考えているな、と見えたようで、彼は案外それ以上は急かさずに、待っていてくれました。
そんなにギリギリなら、これだけ飲んだとしても その場しのぎですよね
それだけ言いました。
目を合わせました もう怖くなかったから 僕らの間には沈黙の方が深い意味があるのかもしれない。 僕らは基本的に、二人きりであれば特に、多く言葉を交わしたりしなかった
僕の心音のような音、聞き取りづらいキーンという音が、這うように聞こえる
その時の記憶にはその音がよく残っている。
彼は少し考えて、 「じゃあ、早く上がって 待ってるから」 そう言って風呂場から出て行きました。
彼が離れて行った後、僕は濡れたタイルの床にしゃがみこんで、自分の言葉があっていたのか、間違っていたのか、考えて、考えて、止めて、 ただ、自分を、動物みたいだなと思いました。日に日になり下がってると。
風呂から上がると先輩が台所に居ました。 水場に手をかざしていて、そして水に濡れたままの僕を呼びつけた。 先輩の手を見て、 赤色を見て。 僕は、多分、殆どねだってるのと変わらないセリフを吐いた。
はっとして口が滑ったと気付いても遅かった。 彼は 「お前が言った様には、お前にだけはさせない」と言いました。 そして僕は突っ立っていた。
「そんなに申し訳なさそうにするなら無駄にしないでもらえますか」 先輩は僕を睨んでいました。 手の甲を切っていた
「折角させるなら少しでも気分の悪くない方法でなくちゃ、僕は餌じゃないから」 その血は皿に溜まって、その上の彼の手からまだ滴り落ち、少しづつ量を増していました。
僕はもちろん、結局は先輩の望むとおりに動いていました。
「君は、僕の体液が必要だから、僕を探しただけです。君は。僕とつながってるから、僕を見つけることができた。それだけ」
僕は目の前の餌に飛びついて、最も大事な物を傷つけている ずっと。