窓をこんこんする黒いお手手が見えたので、オルロレンチはうなずいて窓を少し開け、手だけの彼を招きました。彼、彼らは一様に黒いお手手が独立した様形をしています。キャストの管理を役目とするキャストの傘持ちで、オルロレンチの馴染みの友とも言えます。いつも通り、机に用意された紙面の上に降り立ち、お手手の彼は簡潔な身さばきでペンをとると「近況報告を。」とその紙面に書き付けました。オルロレンチとオルロレンチの傘持ちは、その前にお椅子を持ってきて腰掛けていて、おだやかな様子です。オルロレンチはお手手の彼との時間が、それなりにお気に入りでした。

「おはなししましょう、といってみては。そういうときは。」

-お話しましょう。-

「はい。今日はいい天気です。ふらつかずに飛べた?」

-はい。風もなく。先日のあなたの仕事ぶりのおかげです。最近はいかがお過ごしですか?-

「大抵お家で幸せに。傘持ちと。ご存知ですね。季節のお掃除以外には、あまりお外に行かないから。あなたが来るのも、楽しみのひとつです。」

-そりゃよかった。-

「この前ね、傘持ちとね、お庭に新しい苗を植えました。後、サボテンに水をやりました。後、傘持ち、お使いに出して、お客様用の食べ物を少し、調達しましてね。お客様なんてあなた方くらいですから、お手手さんに、お出ししましょう。」

-ありがとうございます。生憎、今日は片手でして、多少食べ筋がお見苦しいかもしれません。-

「気にしません。あなた、右手?左手?菓子切とフォークならどちらがいいの」

-右手です。フォークでお願いします。-

オルロレンチの人型の傘持ちが台所に引っ込んでしばらく、お手手の彼に、白いお皿の真ん中で皿より白くまるまるとした、透明でプルプルなベールに包まれきらきらとした、上等なお肉が用意されました。もうひとつ、お手手の彼に見えない人型の身体があるみたいに、椅子が用意されました。お手手の彼らを体があるみたいに扱うのはオルロレンチ達くらいです(いる場所があると、いるのが少し簡単になりますからね。)。お手手の彼はできる限りのいただきますをして、フォークで白いのを一口分にし、見えない人型がいるならお口でしょうという空間に運びます。いずれ一口分は白色をなくし、清潔に溶けて消えました。その仕草が淡々と繰り替えされました。もう見慣れたとはいえ、初めてお手手の彼の食事を目の当たりににしたオルロレンチは、上手いことするものだと感心したものです。こうすれば、両手がいらしても2人分用意する必要はないのですから。あっという間にたいらげて、お手手の彼はごちそうさまのポーズをしました。-ごちそうさまです-と、書き付けもしました。

-こんなに完璧に、まっ白いお肉、初めてです。白い絵の具より珍しいのでは?-

「驚いていますか?」

-はい。-

シーン/オルロレンチ:砕けた笑み

「プレゼントを選ぶのは楽しいですね。驚かれると尚。私も傘持ちも、つい特別なものを選んでしまいます。」

-いつもありがとう。-

「あなたの主人も驚く?」

-既に驚いています。僕のする意思疎通は、ほとんど希釈した遣い主と同じ、と認識ください。-

「道理で。傘持ちでありながら大変達者にお話しできるさま、驚いていました。」

オルロレンチはお手手の遣い主のお食事姿も見たことがあります。お手手の食べっぷりは、遣い主のお食事を彷彿とさせます。椅子があるから、お皿があるから、まるで見えない遣い主が尋ねに来ているみたいです。実際、時には遣い主の方も尋ねてきますが、彼にご馳走したことは未だありません。

-いつか、機会があれば。-

お手手の彼は、途切れ途切れにお話しするオルロレンチと、時折音のない相槌をうつ人型の傘持ちに、お腹いっぱい近況を報告してもらって、また同じ窓からさよならします。

-戻ります。ありがとうございました。

僕ら、みなさんの管理が役目ですから、何かあった時、真っ先に僕らのこと、思いつくよう、お願いします。些細なお申し付けでもいいのです。-

との言葉が、机の紙面に残されるのでした。

210612