ラバランの腹部の浅い切り傷、その治ったのに人先指を添えてなぞります。ラバランは少し痛そうにしました。ウスルはラバランの顔を観察しました。ウスルはラバランを見ることは苦手でしたが観察することは苦手ではありません。だったらウスルは今、とても冷たい目をしているのでしょう。ウスルはラバランの闘いが好きでしたが、ラバランに穴が開くのも、ラバランに汚れがつくのも今やウスルとして許せるものではありません。ラバランの傷を覚えています。位置や時期を。感情がある程度伴うから。ラバランの身体の一部に時折、ウスルが手を当て祈るようにするその意を、長らくラバランは分からずに受け入れていました。ある日、「この意味がわかりますか」祈りの意義を問われ、もちろんラバランは答えられません。分かりません。ウスルは順番に問いました。「何故この部分をつつむかわかりますか」ラバランは答えられません。ラバランはラバランのことがわからないからです。ウスルは説明しません。継続して祈りました。怒りみたいなものでした。ラバランは少しずつウスルの目を見れなくなっていきます。最後は謝る権利も無くなります。ラバランは処女でも童貞でもありませんしウスルはラバランの処女や童貞に盲目的な価値をおいているわけでもありません。ですがウスルの世界の上で価値のあるラバランの処女性や童貞性というものはあります。特に処女性には、ウスルの神聖な童貞性と対になるほど緻密さと深さが投影されました。ラバランは今や自分の意思では体を使用しません。できないのです。管理下にあるということです。自分の穴を自分で埋めることはできませんし、前貼りを自分の意思で外すこともできません。触れることですらウスルの怒りを買うかもしれません。ラバランの素行が悪いから。焦れたラバランが、動かないウスルの指を、自らの壁をヒクつかせて摩り、縋るように腰を擦り付けた時、ウスルはラバランを打ちました。ラバランの素行がずっと悪かったから。ウスルがとても冷たい目をしても、ある時は観察ではありません。ラバランはそれが好きなようでした。それが好きだとバレたら、ウスルはもっと冷たい目になりました。ラバランは自分の身体に穴が開くことも他人の血で濡れることも別段気にとめてきませんでした。ラバランの価値が著しく低い架空の国で夢を続けていた名残です。ラバランは甲斐甲斐しいウスルの手助けを借りて、ラバランがウスルと共にある唯一の価値である世界の言語を学びます。たどたどしく。その世界はウスルの差し出すちいさなおさじに乗っていて、ラバランはウスルにそれを食べさせていただいているのです。睨まれながら。新世界へ。ただ受け入れるのではなく、ただ何も言わないのではなく、変質して、変革して、まるで捨てるみたいに「身を捧げる」なんて言わなくなる新しい頭へ。ウスルはラバランをいつも睨んでいました。自由にしなくても、自由でいられるようになるまで。また、俯いて、黙って、声を殺して、その癖、泣くから。