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ここは作為的な夢です。ウスルがそうなったのに理由はありませんが、元々ウスルはそうでした。ウスルとオルロレンチは台所におりました。ウスルには確かめたいことがありました。ウスルには持ち物がありました。客人です。それは3人いるのでした。ここはウスルの部屋なのです。オルロレンチはウスルが無視をしても、何度も話しかけてきました。「なんでこんなことしてたんだったか、忘れそうにならない?」ウスルは気付いていました。忘れそうになると気づいた時にはもう忘れているということに。ウスルには知りたいことがたくさんあります。オルロレンチはにっこりしました。オルロレンチは白い肌をしていました。いつのまにかオルロレンチは消えていました。ウスルがレクトのいる部屋に入ると、レクトはウスルへ意識を向けます。ウスルの目を見たとかウスルにおはようを言ったとかというわけではありません。レクトは裸で横たわったまま一指も動かしてはいません。レクトにはウスル以外がありませんし、レクトの人生にウスル以外があったときに、レクトの人生を天罰のように大きく変えたのはウスルでしたから、レクトにとってウスルは特別です。ウスルは自意識の水面を揺らさぬ冷酷な静けさを認識していました。レクトの内情を知っていました。とことん解き明かして。そのくらいレクトはウスルの持ち物なのです。ウスルはレクトに対して耳を開きました。こうするとなにもかも、答案用紙を盗み見るかのようにつまびらかになります。レクトはウスルがレクトの全てを暴こうとする姿勢を、やめてほしいと、焦って、恐れます。ウスルの為を思って。レクトは優しく、弱く、ウスルがはじめての、唯一の友達です。意識はあるけれど、アクションにリアクションを示せない、「レクトのようになってしまったとあらば、人は人なのでしょうか?」人形なのでしょうか?少なくとも一般的によく知られる人ではありませんが、彼は今ウスルのよく知る、ウスルの為の人間です。ウスルはレクトの体に適切に手を回し、適正な体重移動で以ってレクトを起こします。ここでこうなってしまった肉体というのは、とても軽いのです。もしかしたら知っていた形をしてはいないのかもしれない。ウスルはレクトに小さな声で、おはようと言いました。肌が触れた事実に震える心を両手でそっと包むように。レクトは変わらず、ウスルに恋をしたままです。ウスルはそれがとても長持ちしていることに疑問を持ちました。いかなる疑問も、この世界を動かす原動力です。ウスルは開いた耳が拾い集めた事実を手帳にしたためました。

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ラバランの部屋には、ラバランが、レクトがされていたのと同じように、安置されています。ラバランの部屋にはずっとオルロレンチがいるのですが、ウスルはオルロレンチを一瞥もせずにラバランに近付きました。オルロレンチはウスルに、ウスルが何を知ったのかを、パパが気にしている、と伝えました。ウスルはオルロレンチがラバランをパパと呼ぶのがあまり気に入らないので、ウスルはオルロレンチを無視してラバランにお父さんと呼びかけました。ウスルは、お父さんが昨日知ってしまったことと、これから知ることを知ったと、ラバランに伝えました。ウスルにとって動かないラバランを見ることは、いかに回数を重ねども、刺激的な体験です。眠っているラバランでも構いませんが、とにかく意識をアクションに投影できないラバランを見ると、動物の持つタガが外れそうになります。生来外れないと言い切っていたはずが、方法さえ知ってしまえばいとも簡単に外れる、そういうタガがウスルにはあります。ウスルは唸ってしまいそうなくらい、ラバランを見ました。ラバランがそれだけで、体の中のどこかを愛おしそうに痙攣させたのが聞こえます。それだけで。なによりウスルのものである証明に違いないので、ウスルはラバランを見下しながら、唾を飲みこみました。不思議と怒りは沸きませんでした。こんなにつぶさに表されていたラバランの身体の中の仕組みのかみ合い、ぶつかり合いを、長い間、聞き逃してきた、その事実に、ウスルはもどかしい疼きを温めました。オルロレンチはとうに消えました。ここでは、ウスルの意識の外に追いやられ過ぎたものは、0に還ります。ラバランはウスルを愛しています。ウスルはその源流のエピソードを、その歴史の一部を、この世の主と同じくらいずるい方法で知りました。それをラバランはきっと、いいこととは捉えないでしょう。罰すべきというべきではなく、心配しているのです。ウスルもラバランを愛していました。もはや、可愛らしいラバランの過去をも、約束違えてまだ見ぬ未来も、愛しています。いつだって、ラバランの体内の、ウスルのことが大好きなこと思い出してしまうところに、最も暴力的な器官で触れたくて仕方ありません。生物らしい行為に理性的な支配をまぜまぜしたウスルが入ってしまうと、ラバランはいつも、腰の奥をじんじんさせて、最もデリケートな粘膜を大きくゆっくりヒクつかせて、完全にウスルのものになります。ウスルのものになる喜びを自分の身体で受け止めきれずに、本物の涙を流します。ラバランがウスルの本質的な暴力で本質的な従順さを取り戻すことは一定期間必要な祝福でした。

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ウスルはラバランを愛していますが、その愛はレクトへの独特な支配欲へ展開されていきます。レクトはウスルを愛しています。その愛の中身こそ、今最もウスルの知らないことです。見て見ぬふりをしてきたのですから、知らない分、知りたいことであり知るべきことです。ですから、レクトにはたくさん、少しずるくて可哀想な内容も含めて、仮説と実験を繰り返しています。今日も。ウスルのこの行為は自らを道具とした実験という位置付けです。ウスルはレクトと友達になったはじめの日を思い出しましたし、こうして今のようにこの部屋ではじめてレクトと繋がった日を思い出しました。その日、レクトは、「友達がいなくなっちゃう」と言いました。それはウスルにしか聞こえず、ウスルは、大丈夫だと言いました。レクトがせめて、レクトの苦しみの取り残されるだけにならないようにと、ずっと友達だよと言いました。今日、ウスルはレクトの上に覆いかぶさっていました。性器を熱くかたくして、中でじっとしていました。レクトの意識が脆い拒否を下から突き刺すようにウスルの性器に向いていました。レクトは強く興奮していました。この興奮のどこからがシャールに植えつけられた哀れな反射かを見極めるために、レクトの動かない表情をじっと見つめていました。そしてウスルはたどたどしく、「私のこと好きでいてくれてありがとう」と言いました。あまりにたどたどしかったので、泣いているようにも聞こえましたが、ウスルは無表情でした。レクトも表面的には無表情でした。しかしレクトの感情は無表情ではありませんでした。ウスルとレクトの間には感情の逢瀬がありました。シャールが、ウスルを、僕くらい、ひどい、と言いました。レクトが素直に、そしてラバランが素直に、新鮮な快楽に簡単に飲まれて簡単に虜になるのを、シャールが、僕の努力のおかげですよとウスルに言います。それが間違いであると言う仮説をウスルは持っています。レクトのおかしくなりそうな感覚を聞いていると、ウスルもおかしくなりそうな感覚に引っ張られます。ウスルは知りませんでしたから、レクトのこういった衝動を知らずに長らくお友達をしてきました。レクトの耳元に口を寄せて、「お腹の中でおしっこしていい?」と聞くと、レクトは必死に嫌だと言うことを伝えようとします。レクトが、ウスルとは友達でいたいと言いましたが、それはウスルにしか聞こえません。そのセリフは君と友達になりたいといういつかのレクトのセリフと酷似していました。ウスルには必死の拒否と同時に、レクトの身体がウスルを求めるのがわかります。体内に大量の体液を注ぎ込まれることへの期待だけではありません。レクトは確かに、間違いなく、ウスルのモノとして拒否権なく、ウスルに使用される事実を求めています。これは取り除くべき腫瘍かもしれないし、違うかもしれない。仮説と実験の正しい繰り返しによって、知れば知るほど、ラバランの源流に触れれば触れるほど、さまざまな嘘と誠を用いて、レクトをこそ解き明かさないといけないと気持ちを新たにするのです。シャールが、レクト君の味方はこの世にひとりもいない。と言いました。レクトに。ウスルは繋がっているところに手をやって、触れた糸を引く粘液に粘液が伝って、玉のようになって滴る前に、それを舐めとりました。

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シャールの部屋には、また同じように裸のシャールがいます。ウスルは少しだけ冷酷な気持ちになりました。レクトの部屋からシャールの部屋に来ると、いつもこうなってしまいます。ウスルはシャールを持ち上げて、器用に目隠しと猿轡と軽い拘束を施しました。動かないので必要ないのですが、動かないので必要ないという理由で、お人形に服を着せる意味は無になるのでしょうか。ウスルのお人形遊びは、この3人から知識を得ることを目的としています。ウスルはシャールには話しかけません。もののように扱いますが、最低限の丁寧さを残します。仕返しがしたいわけではないからです。シャールは後からこの世界に連れてきた存在です。レクトを知ることでラバランを知ると、ラバランに絡んだ無意識化のシャールの名残を選別し解いてバラす必要性が見えてきました。何がシャールで何がシャールじゃないかを見るために、ラバランとレクトのおまけとして連れてきました。シャールに施した拘束は、シャールを2人の穴として使う際にコンパクトに済むように、レクトにもたらされた自由を不自由なシャールで手っ取り早く証明できるようにという意味を持ちます。
3人を同じ部屋に集めるときもあります。するとウスルは部屋が丸ごと罪そのものになったと感じます。3人を集め、作用を観察して全てを解き明かそうとする自らを、罪そのものを創造したと評価せざるを得ません。これは生まれてはいけない因果の整理の仕方で以って、物事を確かめる作法です。ラバランが苦しそうなのを感じました。お父さん、と呼んで、側に向かいました。ウスルさん、と呼ぶ声が聞こえました。ラバランの胸に突っ伏して、ウスルは暫くそのままでいました。不適切になってしまった自分として、適切だった頃の自分を振り返っても、ウスルにはただただ何もないような空間があるだけです。ラバランの胸から顔を上げたウスルは自分の髪が半分黒くなっていることに気がつきましたが、目的と関係がないので気にしません。ラバランが苦しそうなのは、いやですが、ラバランがどう生まれたのか、どう育ったのか、どう考えてどう感じ、どう悔やんでどう慈しみ、そしてそれらが一体何に向かっていくのか、この人の全てを解き明かし、自由をも管理し、取り返しがつかないくらい、自分のものにできるのなら、罪だってなんだって生まれて、生んで、どうやら多少は、構わないのです。なつかしい、と、背後でエギが言いました。私の大きな庭も、ここから始まったのよ。とエギが言いました。許せないものに成り下がっても、案外、世界は……エギは、言葉の途中にして、ウスルが何か言いそうになる前に、消えたので、ウスルは自分が何を言おうとしたのか忘れました。お父さん、とラバランを呼ぶと、エギがいたことすら、ウスルは華麗に忘却しました。

「大人になってまで、いつまでも、都合のいいオナニーしてるのは誰ですか。僕散々、言ったじゃない。君は、君の信じるのとは、違う意味でナマモノに違いない」