シャールは高台から海を見ていました。
「難しいことを考えなくてもあの人達は踊ってればいいんだな」
海の近くにいる、小さく見える誰かを見ていました。シャールの目が外斜視に触れているときは、決まって何にも興味がない時です。それは、もはやほとんどいつものことでした。それは、もはやほとんどいつもレクトにとって寂しい事象でした。
「僕らも一緒だね。なる様になるのが一番だね。」
レクトは本当にそう思いますかと言いました。レクトは頻繁に、シャールに、本当にそう思いますか、とか、先輩は本当のことを言っていますか、とか問いました。そうすると決まってシャールはレクトのそばを離れました。今も例に漏れず、シャールはレクトのそばを離れて駆けていきました。
「高いところにいると身分を間違えそうになる」
シャールは赤い階段を下りていきます。レクトがゆっくりと追いかけて砂浜に降りた頃には、シャールは海のすぐ近くで、うずくまっていました。泣いていました。レクトは傍に行きました。シャールは地面を見ていました。
「僕高いところで育ったけど、低いところも好きだ」
湿った砂をかき集めていました。かき集めてできた穴をより深くしたりもしていました。小さな世界を適当に作って、すぐに壊してしまう神様のようでした。レクトはシャールが嫌いでした。シャールもレクトが嫌いでした。それでも二人はよく二人でいました。別に嫌いではないから。今はそういう理由で一緒にいるのではありません。シャールの保護者みたいなことをしているから、一緒にいるのです。ウスルに会いませんか、シャールに問いました。シャールは何も言いません。シャールが帰ってきたその日、レクトは慣れないことをしました。慣れないことはするもんじゃないのかもしれません。大抵できないことなのだから。できることをしてきましたが、彼にはこれからも慣れないことをしなくてはならない気がしました。