グレブはシャールにどうして建物を人称代名詞で呼ぶのかを問われて、前世で建物に恋をして、愛して、むすばれたことがある、と答えました。グレブは、君もそこにいたと言いました。君もそこにいたし、れっくんも聖もいた、と言いました。シャールはなんとなく、黙って聞いていました。自分の居ないところでされている自分の話に耳をそばだてるのとよく似た神経を使って。けれどグレブはそれ以上は話しませんでした。長い話が始まる予感がしたから静かにしていたのに。シャールはもっと質問をしようと試みましたが、その前世への触れ方を間違うと、シャールの今が台無しになる気がして、やめました。シャールはその日グレブの本棚から勝手に借りた本を、ひとりはらはらとめくりながら、前世に思いをはせました。グレブの愛した建物は、いまこの世にいるのか、いるとしたら、誰なのか、考えました。本から花が落ちました。グレブから借りた本からは、押し花が良く落ちます。大抵は桜で、時々紅葉でした。もうグレブにも忘れ去られたに違いないのに。シャールはそれをそのページに挟みなおして、グレブの本棚に返します。