ザインくんが聖とお付き合いをはじめたのをキッカケに、何か僕等の夜遊びなりなんなりに変化が起こるかな~とか、おふたりはどんな経緯でお付き合いしはじめたのかな~いつか聞けるかな~とか、僕は色々をそこそこに楽しみにしていた。当時は楽しみにしていた。けれど聖は日に日にタバコの数が増えていき荒み気味、ザインくんが床に転がってる数も増え、聖が生成するお人形のクオリティは、僕から見てもわかるくらい下がっていった。楽しいお話伺う隙すら無い転落だった。僕は、僕らは、気が気でない。僕はれっくんが、どこかの床に転がっていたらしいザインくんを背負うかなんかして居間に連れてきてソファにかけさせて、お膝をついてお口元のゲロを拭うのを、そしておとなしくされるがままのザインくんを、シャールくんと一緒に眺めている。手伝いもせず。シャールくんと僕はうわさ話が好きなので、最近はもっぱらザインくんと聖についてうわさ話をしている。毎日している。れっくんはこの世で名簿に記録されてる人物の、くっついた離れた、惚れた腫れたをつぶさに観察できる位置にいる。是非ともれっくんに色々聞きたいところなのだけれど、れっくんは決してそんな意図で聞かれたことに答えはしない。れっくんは櫛を左手の薬指と小指の間に挟んで、ザインくんの髪を拭うのと解くのとを器用に繰り返していく。れっくんがザインくんに、あっけないくらい簡単に「聖と離れてはどうです」と言ったので、僕はシャールくんを見た。シャール君も僕を見た。シャールくんは押したらぷぅ~っと空気の出そうなお口とほっぺをしていた。「知らんぞ僕は」という顔だった。僕は少し寂しい顔をした。れっくんは言葉を続けた。「体調の優れない貴方を、聖が見て見ぬ振りしたのが今回で2回目です。別れろと言ってるんではありません。聖は、大事な人を大事にするということを勉強するべきです。それには時間が必要だと考えます。」ザインくんは何も言わない。ザインくんが何も言わなかったので、れっくんも何も言わなくなった。れっくんは立ち上がり、何も言わないザインくんの手をとり、立ち上がることを促すように、引きよせた。ザインくんはゆらぁっと立ち上がる。ゆらぁっと。れっくんは目を細めて、ボソッと「でけえな」と言って、ザインくんをちょっと見上げている。ザインくんの虚ろな目が、一応れっくんの方を向いているのを、僕らはソファにかけている者からの低い目線で眺めていた。こんなところからザインくんを見上げていると、自分に影が落ちていなくても、自分に影が落ちているような気もちになる。屋根みたいな男の子だ。れっくんはでかいザインくんを一階のでかい風呂に連れていった。僕はシャールくんとふたりきりになって、わざとらしいため息を、わざと鼻でつきながら、シャールくんを見る。シャールくんはうーん、と言いながら首をかく。聖にも、ザインくんにも、きっとなんだかこの世界らしくない傷が残る。けれどその傷は、今まであり得なかったくらいに急速に、この世界を進めるだろう。「レクト君、怖いな。全カップル監視してるんですか」シャールくんは、遠い目をしていた。僕にはシャールくんが、本当にこわいと思っているようには見えなかった。うらやましい?と聞いた。「めっちゃ羨ましい……」と言って、シャールくんが、手元のカップを両手で包むみたいにして、紅茶を飲んだ。ごくごく飲んだ。めちゃめちゃ不機嫌そうな聖がれっくんとザインくんを追いかけ風呂に向かうのが見えて、シャールくんが笑った。