風のない日だったので、シャールは手肢で湖に氷を張りました。日が沈む方に向けて、湖の端っこから始めます。氷が安定したらそれに乗っかって、少しずつ歩きながら、湖上を進みます。丹念に、波を立てないように、シャールは大きい割に地道な力で、氷の大地を広げます。シャールの日記3日分を読み切るくらいの長い時間をかけて、藍色の湖は一部、スケートリンクになりました。波打つ水を綺麗に凍らせるのは大変骨が折れます。 まるで誰にも存在が知られてはいけないみたいに息を潜めてする作業です。シャールはゆっくり立ち上がって、まだ高いところにある夕日を背にして、ゆっくりと滑ります。手を背中にして、右に左に重心を変えて揺れながら。さっきまでウスルとレクトとソーダを飲んでいたところに戻るつもりです。まだ遠くに見えるウスルとレクトは、シャールを見たり見なかったりしながら、パラソルの下でゆったりしています。 白いお昼は3人のものです。ウスルは大変眠そうですが、パラソルなり、お椅子なりテーブルなりに大変満足気です。ソーダパーティでたったひとりソーダが飲めないというのに。レクトが口に手を添えて、あくびをしたらしいのが見えます。レクトは本日お休みなので、楽な格好をしています。2人がけのお椅子にほとんどごろ寝するみたいに寄っかかって、くつろいでいます。レクトはゆっくり起きて、足元の赤いカートンから冷えたソーダの瓶を手に取りました。グラスホルダーから冷えたグラスを出して、さっきウスルに代わってシャールが割った歪な氷をいくつか入れて、シロップを注いで、ソーダで割りました。その一連をほとんど片手でだるそうにやる、そういうレクトが、ほんとはシャールの好むところの彼でした。毎日、終始、彼がだるそうなら、もっと仲良くしてやってもいいのに。シャールがさっきまで座っていたひとりがけに戻るタイミングとほとんど同時に、金色のソーダがだるそうなレクトの手で完成したので、シャールは僕にですね、ありがとう。と言いました。レクトはシャールを見ながらそれを自分で飲みました。「先輩もっと遠くまで全部氷にしてくださいよ」レクトは言いました。ウスルが口だけで笑いながら寝返りを打って、こちらに向きなおりました。シャールが「もう、ソーダもグラスも冷やしてやらないし、氷もつくってやらないぞ」と言ったら、レクトはほんの少し笑いながらまたソーダを、今度はシャールに作りました。シャールはそれを飲みながら、湖の水と氷の境界線が、夕日でキリッと光るのを眺めました。もう少しすればレクトの傘持ちが、ランプとか追加のお椅子とかを持ってくるのでしょう。ソーダパーティ夜の部がはじまれば、ザインがここに加わる予定だからです。今回の氷は透き通って綺麗な出来です。ザインが来たら、自慢しようと決めました。
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