シャールにはお散歩じゃない日などほとんどありません。お散歩をしている大抵何かを見つけます。今日は座礁した男を見つけました。それは浜辺に、砂まみれになって、うつ伏せになっていました。黒い服を着ていて、近くで見ると、あらかた乾いていたとはいえ、まだ濡れそぼっているのがわかりました。シャールが知るどんな男よりものっぽでした。立ち上がればシャールより頭二つ分くらい大きいでしょう。端的に言えば、怪しい男です。シャールはしゃがみこんで彼の赤毛の内側にある顔を覗き込みましたが、顔はよく見えません。意識がないようです。シャールは砂浜から、丘の上の空き家を仰ぎ見て、この人をあそこに運ぼう、と決めました。シャールはお仕事の一環で、あと個人的なお散歩趣味の延長で、三度ほどその空き家に入ったことがありました。シャールは男を囲むように、氷で歪なベビーベッドを組み立てました。なるべく揺らさないようにまた別の氷で持ち上げ、おなかいっぱいになるほどのごはんをゆっくり食べ終わるくらいの時間をかけて、丘の上まで運び、そこからはベビーベットを解体して、シャールがその男を抱えました。重くて大きい。ほとんど引きずるようになりました。お散歩がてら、日記でも書くのに使うつもりで、空き家の鍵を借りてきていて、それが幸いしたと思いました。いつものことながら、その家の中は古い匂いがしました。埃が陽の光で金色に光って舞っていました。黒いものを白く照らした感じです。白い埃がいろんなところに薄く積もっていました。ここは、ブロキマナクが、グリーンルームに隔てられてばらばらの観光スポットだった頃からある家なのです。昔、この家には「パパ」と「ママ」と「女の子」と「犬」という個々で構成された「家族」というチームが住んでいました。海が広く見渡せる家なので、「女の子」はおおらかに「育ち」ました。「女の子」はのびのびと「子供」のままでいました。地上2階、地下1階建で、地下には家の入り口と、大きな金色の「犬」の涼しい寝床がありました。螺旋階段が家の中を貫いていて、部屋の数々はその螺旋から生えたみたいにできあがっていました。家の大きさの割に窓の数が不十分でしたから、うまく照明を配置しないと家の中は暗くなりますが、家族がうまく工夫をしていましたので、家の中は今も快適です。家族の前にも家には主がいて、それはツタの植物の幽霊と、取り残された機械でした。その頃の記録というには不十分ですが、今も植物の幽霊が描かれた肖像画と、機械が使っていたコップがあります。シャールはとても迷った挙句、男を古いソファに寝かせました。話しかけようかと思いましたが話しかけませんでした。この男が起きたら話しかけることはどうせ避けられないのですから。

190815