ユリウスは肘と膝で自立し、4点で体を支えています。今は移動していませんが、移動手段としては不格好な4足歩行を強いられていました。時折バランスを崩して倒れるので、シャールは倒れた回数を数えてユリウスの腿の刺青の周り描き並べることにしています。しるしがあと一つ増えると刺青とのバランスがいいということで、昨日のシャールはユリウスのリードを強く引っ張ってたくさんお散歩をしました。ちょうどしるし一つ分、昨日のユリウスは倒れました。二の腕と太ももの薄い痣は、そのせいです。ユリウスは地面を見てじっとしています。ご丁寧に肘と膝に取り付けられた専用のヒールが、彼が観賞用に拘束されていることを物語っています。膝をついた餌木にハサミで髪を整えられていますが、じょきじょきと音を立てる、ためらいのない刃入れで、整えていると言うより使い道がないので短くしていると言った風情です。腰まで届くほど(二足歩行であればですが)長かった髪が地面に散らばります。シャールは地面に座り込み、本人から切り離された髪を直径20センチ程にくるくると巻いては、積むように重ねています。その巻き方が、8の字巻きと言うのだと餌木に話しかけていました。とても至近距離で餌木に話しかけ、飽きずにもたもた毛で遊ぶので、餌木はユリウスの毛を切るに十分な作業スペースを確保できていません。
「邪魔しないの。シャールくん、そっちで待ってなさい。シャールくんのために切ってるのよ」
シャールは曖昧に笑い、もっと餌木に近付きました。すると餌木も笑いました。シャールは、ぼそぼそと何かをつぶやいて、鼻歌をはじめて、せっかく積み上げた毛を手遊びでまた散らかし、餌木の手つきを眺めました。ハサミを眺めました。餌木の手はユリウスの毛を掴み、短くしていきます。ユリウスは地面を見てじっとしています。シャールにはどうしてもユリウスで遊びたいという気迫はありません。長い髪が邪魔であるなら、どうしてもユリウスでなくてもいいのです。シャールはユリウスを一生懸命整える餌木を見つめていました。餌木はシャールへのプレゼント「ユリウス」に手を施し、「使いやすいユリウス」にグレードアップしている最中なのです。
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