ウスルの部屋に誘われた。いつも通りついていった。僕はいつも通りの場所に座る。いつも通りパズルなりお絵かきなりして遊ぶのだと思っていたら、ウスルはアウトドア用品がまとまっている一角から寝袋を引っ張り出してきて広げ、僕に入るよう促した。そういう遊びですかと聞いたら、僕の体調が良くないから、寝てほしいのだと彼は言った。彼は、ポーツの肉体が基本的には睡眠を必要としないことを知った上で、それでも寝なくてはいけないと言った。僕の看病をするために今日は呼んだということらしかった。おとなしく寝袋姿になった僕の真横でウスルは、別の簡易テントを苦労して広げ、また別のクッション性の高いレジャーシートを不器用に敷いた。どれもこれもアウトドア用品としては立派で本格的だが新品同様で、屋外で使われた形跡はない。屋内に広がったキャンプ型秘密基地を眺めながら、本当に看病なのですかと問うと、ウスルはうんうんとうなずいた後で「看病に彩りを添えている」と説明した。僕は納得してそのまま転がっていた。バーベキュー用の机といすを立てるのに苦労しているウスルを手伝いたくて起き上がろうとしたが、「寝てなさい」と怒られ押されて僕はまた転がった。ウスルが体調の診断をしたのだから、僕は本当に本調子でないのだろう。目がかすむことが増えた。ミスが増えた。何をするにもスピードも落ちていた。それは事実だった。一通りキャンプ型秘密基地をレイアウトし終えたウスルはしっかりとしたレジャーシートの上に座り込み、お絵かきをはじめた。僕に「見ててね」と言ってゆっくりペンを動かした。うさぎですかと聞いたら人だというのでおとなしく見ていたら、うさぎの耳だと思ったところは人体でいうところの足だった。彼は僕に向かって、僕から正位置に見えるように絵を描いている。ウスルから見たらひっくり返った人が生まれるようにペンを動かしている。彼は僕の為に絵を描いている。
「誰これ」
「なんでもないひと」
「こっちは?」
「そっちもなんでもないひと」
恐らく今描いている3人目もなんでもないひとだろう。ウスルは書き溜めた人型をハサミで切り抜き始めたけれど、彼の操るハサミの軌道は人型のアウトラインに沿っているようで沿っていない。線の内側を切るか外側を切るかの迷いが勢いづいて、せっかく描いた人型の首は「あっ」というウスルの声と同時に切り落とされた。花弁のように落ちる小さくぺらぺらの首を寝袋から手を伸ばして拾って渡したら、ウスルは持ってきていたテープで、これまたへたくそに切り取られた体と簡単にくっつけた。
「何人作るのですか」
「いっぱい」
いっぱい作るには遅い手さばきを眺めながら、ウスルとぽつぽつと質問のしあいっこをした。ウスルは僕の質問にきちんと答える。グレブさんや先輩は僕の知識や認識の範囲を出た返答を意図的に隠すことがある。彼らはこの世界の約束を守っているのだ。僕は無垢で無知で不完全が仕事の内だった。
ウスルの周りには不器用な人型が一体ずつ増えていく。僕は久々に眠りそうだった。ウスルが人型を切る手を止めて僕を眺めているのが分かった。