四肢がないレクトをベッドに固定するのは、動けないようにするためではありません。 舌のないレクトに猿轡をするのは言葉を奪うためではありません。轡をとったレクトが口を開けると、断面が均一に切り揃った舌が見えます。これでは「あ」と「は」と「ま」と「わ」しか発音できません。レクトは「あ」と「は」と「ま」と「わ」ですべて言い表すことを、しぶりはしません。一音一音区切って、丁寧に発音します。伝えるという行為、シャールに。受け取るという行為、シャールが。どちらにも希望を持っているのだと、舌がある頃のレクトは言いました。今もその希望を保っているということです。レクトは出せない音を出せる音でもって代替しシャールと意思疎通を図ります。その哀れなことを、シャールは気に入っています。哀れなことを。シャールは哀れなものが好きでした。現在のシャールの認識をこの世とするならば、この世にはシャールとレクトしかいないので、レクトが哀れであることを、人生をかけて好みました。健全であったレクトが覚ましたその途端の表情、守る理由を説いていた純潔の喪失、生涯訪れないと断定を口にしていた愛(インスタント品ですが)の享受を同時に受けて。
内性器の感覚が消え、一番取り乱すレクトを見てシャールは、レクトが自らの快感に、すがりついていた事実を確認し、安心しました。

「貴方は最低ですって言ってくれ。思ってもいないのか。そんな君に価値なんて ないぞ。もう首がついてても、いうこと聞いてくれるんですね」

レクトはポーツです。涙が出ないので、急性の頭痛がレクトの表情を悲痛なものに変えるのみです。レクトが、先輩、終わりにしましょうとか、先輩が嫌いだから、気絶したいだとか、言ってしまえば、これはもっと長引く。レクトは知っています。

目を閉じて、相手の気持ちになるのです。感情移入を心からしたいと、願い求めて、それをする。
グレブさんが素晴らしいとほめたたえた以上の儀式を、自分の為にするのです。
レクトに感情移入すると、レクトの苦しみが体験できます。悲しみが。
抵抗にコクが出る。
料理の醍醐味、文学の醍醐味、舞台の醍醐味、音楽の醍醐味、セックスの醍醐味は、全て悪魔が生み出した宝物です。
「悪魔と天使、どちらが先にいたの?」
「時間のない世界に後と先ってあるの?」