ウスルはまだ、出し入れをしませんでした。眠るラバランの片脚を大事に抱え上げて、なるべくあたたかく密着をして、自分から出る分泌液を、一番、一番奥の、本質的な部分に丁寧に塗り込むことを想像して、腰を動かしました。良くなるためにしているのではありませんが、乱暴な出し入れで刺激を得るよりもこの方が、ラバランの方から勝手にぬるぬると絡みついて、良かったのも事実です。何も知らないまま、突き刺さったウスルをぴくぴくと撫でるラバランへ、時には動かず目を瞑り、祈ります。いかなる微細なひくつきをも意識から逃さないよう集中します。ラバランの中身は柔らかいのに、とても緊張しながらウスルを包んでいるので、受け入れているというよりは切り開かれ、熱くおかしくなっているという風情です。集中していると、襞の集まりの小さな震えが、ウスルをとても小さな距離ずつぬるぬると摩るのがわかるのですが、それはウスルがラバランの中を撫でていることでもありますから、ラバランは小さな刺激に耐えきれなくなったみたいに、やがて大きく、じゅる、じゅる、とウスルの敏感な表面に絡んで、はっきりと揉むようになりました。良くなるためにしているのではありませんが、病み付きになりそうでした。ラバランはいっぱい汗をかいていました。シーツを握っていました。真っ白な肌をしていました。青い血が巡ると死人の様に白くなるラバランを、ウスルはいかにも自分のものらしいと感じて静かに得意になりました。こうして眠るラバランでしか、観測したことがない色です。ウスルは浮かされたようにぼうとラバランを見つめました。自分のものであるラバランを、より自分のものにしたくなったので、肩口に抱えたラバランのおもたい片脚を自分の中に引き込むように引き寄せて、最も奥をゆっくり柔らかく、しつこく、圧迫し過ぎないように、何度もえぐりました。目を見開いて、ラバランを見つめました。ウスルは荒い息を全く隠しません。ずっと、眠るラバランを見ていました。ずっと。ほとんど動いているもののない部屋で、ウスルとラバランも、ほとんど動きませんでした。ウスルとラバランよりも、時計の秒針の方がよっぽど、空気を動かしていました。ウスルは時計を見ました。後10分でラバランは起きます。それがわかるからこそ今はラバランは起きっこないともわかります。起きませんが、もう今日からは、意識なきラバランへのマーキングを隠すことはできないでしょう。二度と内緒だった頃には戻れないのでしょう。いよいよでした。吹っ切れてしまって、ウスルはいよいよ、大きく引き抜いて、深く突き刺しました。はじめてです。繰り返しました。ラバランの中がじくじくとしっとりと蠢いて、ウスルは上を向きました。おかしくなりそうでした。ウスルのおとうさんであり、およめさんであるラバランは、ウスルの全部を、全部以上を、なにもかもを、受け止めるべきです。中でおしっこしてやりたい気持ちにすらなりました。奥にまだへばりついているであろう、童貞だった自分の、先ほどの精液にすら嫉妬して、一番奥から体外へゆっくり丁寧に掻き出しました。ウスルは眠るラバランをずっと見ていました。ラバランの分泌液とウスルの精液が混ざったどろどろをすくい取り、ラバランのペニスに塗りこみました。塗りこみながら、ラバランの汗とウスルの汗が混ざっていることも大事に意識しました。ウスルは、ラバランが覚醒する気配を探しました。ウスルには、それがもうすぐきたることがわかります。ウスルは、早くこのおよめさんが、自らがウスルのものであると、非言語野で、とりかえしがつかないくらい、しっかりと感じてくれるといいな、大事なこのひとに、取り憑くように丁寧に、教えてあげたいな、と思いました。
ラバランの体にもウスルが両手で優しく包み込める領域があったのです。後ろからですから、ラバランの顔は見えません。震えているのはわかります。口を押さえて。上まぶたを下まぶたに添えるくらいの力で目をつぶって。手袋の縫い目が触れないように注意を払って包んだものを、ぬるぬるに任せてていねいになでなですると、口を包む指と指のすきまからあったかくて湿った助けてが、声もなく漏れて、ウスルに縋り付きます。ほら たたなくたって、何も問題はありません。ラバランの中から、いつもウスルの指紋を撫でる、ときにはウスルの欲に沿って脈打つ凶悪な血管を撫でる細かいひだとひだが、向かい合わせにくっついて、すがりつきあっている、ぷるぷるした音がします。ラバランは、中がひくつかないように、無理やりお腹の力を抜いています。それでも小さく、ひだとひだはくりゅくりゅとすれあいます。ラバランも気付いてはいないでしょう。ウスルは、自分が笑っていることには気づかないのに、ラバランのことは、くまなく、多角的に、気づきました。青い光はウスルは助けてもラバランのことは暗闇に置いてけぼりにしていました。たすけても、こわいも余さず聞こえました。頭が焼ききれそうなほど、我慢する身体のにじみも、聞こえました。
「ひどいことする人なんて、もうどこにもいないよ」
目を覚ましたラバランには、ウスルがとても高いところからかみさまみたいな完璧な俯瞰で、自らを見つめているように感じられました。そしてウスルが悪魔みたいにラバランに憑依して暴こうとしている気もしました。全部目とか体ではない、ウスルにしかない感覚器官で、そうされているみたいでした。ウスルは動きません。中まで来て、ぴったりとくっついたまま、抱えた脚にすがって、ラバランを見ていました。物陰に隠れる子供みたいにも見えました。ウスルからは逃げられません。いつもラバランは、ラバラン自身も含む、ウスル以外のすべてから逃げてきたからです。もうウスルもこわいのでどこにもいけなくなりました。目が見えなくなったみたいに怖くて、逃げる場所を探してシーツを引っ張りました。「性器の壁をこすれば快楽を得られる」、その感覚とは全く関係なく、性器の奥のお腹にぼやぼやとあついようなものがあります。ぼやぼやしているわけではないのです。おそらく、ラバランはそれをちゃんと感じとる訓練ができていないか、それを感じとれない問題を体に抱えています。ぼやぼやの正体がとてつもなく大きくてあついことだけはわかります。だから、熱した鉄板に手のひらを押し付けているのに全く熱く感じることができないみたいで恐ろしいのです。こわくて、ラバランは体をよじりました。逃げたくて。するとウスルはラバランの脚をもっと強く抱き締めて、にじりよるみたいに腰を擦り付けました。自覚のできない声が漏れ、硬直して、その一瞬でラバランは逃げたくなくなりました。ウスルが脚を抱っこしているのを、もっと見ようとしました。いとおしいから。ウスルは、抱えたラバランの腿を、舌をいっぱい出してゆっくり舐めた後、ゆっくり噛みました。ウスルの熱い吐息が抱えられた脚に触れました。泣きそうな目をして、ウスルは腰をもじもじ動かしました。ウスルが中で少し震えたのと、小さな声を出したのがわかりました。すべきことをしている。的確な部分を正確に使用して、ウスルがよくなっている、それが全てになりました。自分の中にあるのに感じることができない熱い何かのことはどうでもよくなりました。とにかくウスルのためになりたくなりました。涙がぼたぼた止まりません。複雑なことを考えることはもうできないとわかりましたが、何も考えない生き物になることはこの期に及んでも怖かったので「ウスルによくなってほしい」だけを思いました。ウスルのこれからの人生がだんだんよくなるといいなと思いました。「自分がウスルのいいものになりたい」とか、「あついものがこわい」とか、考える隙はありませんでした。ただ泣きました。ウスルによくなってほしくて涙を流しました。よくなってほしいとき、どうすればいいのか、ラバランにはわからなかったので、祈ってみました。ラバランは今更なんで自分が泣いているのかわかりませんでした。ラバランはウスルをいっぱいいっぱい泣かせてきましたから、泣く権利なんてないのに。
190916