ウスルのお家には今日も友人のシャールが遊びにきたのですが、いつもと様子が違いました。シャールは戸口に立っていて、見慣れない生きた何かを抱っこしていました。シャールが歩いてきた軌跡は濡れた濃い色にぽつぽつ染められています。ズーシーらしいその生き物はびしゃびしゃに濡れています。シャールの衣服もずっぽり濡れています。生き物は濡れているわりに毛先の立った、白っぽい灰色の毛で覆われていました。灰色のまんじゅうを抱っこしているみたいに見えました。「こいつは、僕の傘持ちかもしれない」生き物に元気がないから生き物の学者でお医者もするというウスルを頼りに来たのか、ただ遊びにきたついでに見せたのか、表明しないままシャールがお家に上がろうとするので、ウスルは心から止めて、お部屋から拭くものを掴んできてシャールによこすのでした。
ウスルのお家には水洗いできる固く水捌けの良い床をした部屋が備えてあるので生き物もシャールもそこにつれていかれました。ウスルとシャールで、さてどんな生き物かを見定めたのちに沸かした風呂をこいつにやろうという魂胆です。シャールがそっと、生き物を床に乗せると、ちっさな彼は短い脚を動かして歩きました。ウスルは感心して、おー、とこぼし、シャールは得意な顔をしました。たびたび転ぶのですが、自ら起きてまた歩きます。歩くことに意味があるのか、目的地は設けていないようです。見るに、生き物ははしゃいだりしないけれど、充分元気なようでした。おっとり堂々としていて、孤立していて、寄ることはしません。シャールは四つん這いで生き物に近付いて、毛をまくりあげながら、小さな足や腕のようなものをつまんだり揉んだりたしかめました。「ちっちゃいなあ。ものを運ばせることもできないでしょう」びちゃびちゃだった体はあらかた乾いて、生き物はふわふわと毛を膨らませています。シャールがそっと近付く分には逃げません。勢いをつけて追いかけようとすると逃げようとしますがあわれな小さいのはすぐに捕まってしまいます。するとちょっとだけ暴れておいて、すぐ大人しくします。「諦めが早いなあ」シャールがつぶやきます。生き物はシャールの膝の上でうつ伏せになって、そのおしりはしゃがんだウスルに向いています。なるほどたしかにシャールの傘持ちなようにも見えます。ウスルはシャールの膝で青白い灰色の毛玉の彼をひっくり返します。ぽんぽんした腹の毛がなんとなく白っぽいようでした。ウスルはうーんと言いました。こいつが歩いたり座ったり立ったりするとき決まって上にくる部分を頭部と仮定すると、頭部にはくちばしか角のような金属の一片が突き出しています。ほかに、小さい黒い玉が二つ、毛の中に埋もれていました。頭部の区画をちょろちょろ動くので、どうやら玉は毛の森に浮かんだ目のようで、新しい主人とその友人をじろじろ物色している様子に見えます。目らしいのに指先をやろうとすると、それは毛の藪にしゅっと引っ込みました。かと思うと頭部の外周をぐるっとなぞって同じ位置に収まりました。そしてぷっぷっぶっぶっと音を出しました。シャールはそれをチャーミングだと言い、ウスルは小さな声でぷっぷっぶっぶっと真似をしてみるのでした。ウスルはそろそろシャールとシャールのちいちゃい友達にお風呂を貸してやって、その間に蔵書棚にズーシー録があったのを引っ張り出そうと思い立って、ゆっくり立ち上がりました。
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