暗い棚がいっぱい。青くていっぱい。青い光がかえりみちの唇の輪郭を照らします。かえりみちというのはキャストの名前です。かえりみちの持つ特別なコレクション。かえりみちのコレクションは物質ですが、集めているのは概念です。その物質とその概念は同じ範囲にベールをかけるものではありません。かえりみちには厳密にはこれしかありません。一万堂の入り組んだ、そして整頓された、しかも独り歩きしているシステムに沿ってかえりみちが伸ばした気持ちの悪い触手そのものと言ってもいいほどのものがこのコレクションです。かえりみちは笑いません。ずっと笑いません。だから笑うのが下手です。そういう唇が青く照らされています。青は冷蔵庫の光です。コレクションを見ると安心しますから、コレクションを見なけれ安心できませんから、かえりみちはコレクションを見れば笑いたくなります。笑えないだけです。同時に不安にもなります。上限なんてないからです。キリがない。ラバランが今も生きて演目の上で踊り続ける限りは。ハムセラーは倉庫です。食肉加工場と表向きは公式に提携した別働倉庫です。そして金庫でもあります。かえりみちはヴィランです。全体重をかけないと開かないような重い扉のついた巨大な内緒の金庫に莫大な価値を隠し持つことも正当なヴィランの勤め。食肉加工場を騙して、ラバランを騙して、騙すことがほとんどですが、かえりみちはかえりみちには正直です。数えきれない程の価値のハム。かえりみちが食べるわけではありません。価値が食えるもので良かった。かえりみちは安堵します。食えなきゃ消えたと言えないでしょう?食って消えた体でこの倉庫に保存されていく大量の価値に、充分なんてない。充分なんてない。充分なんてない。だってラバランが何を求めているかなんてわからないから。ラバランが何を褒めるかなんてわからないから。わかる必要なんてない。この上なんてない。筆頭株主でいればいい。先回ればいい。この世で一番主を所有しているのは秘書なのだから。今やかえりみちはラバランの持ち主ですがラバランはそれを知り得ません。かえりみちはラバランの作ったものを一番近くで見ていましたからそれを使うのも上手だったのです。ソリストがプリンシパルのかけらを集めるなんて。自らより長持ちする遺産を所有してはおかしいですか?そんなことはない、大抵遺産と呼ばれる物は宿主に置いていかれるではないですか。あなたの大事なものほど、あなたより長生きする。

240909