今、餌木の体に硬いところは、角と歯と爪とこの靴底くらいしか備わっていません。シャールが、餌木が哀れなのを好むからです。痛くて、怖いのも事実なので、餌木は涙を流しながら踏ん張りました。手を使ってはいけない約束なので、こころがこそばゆいくらいにゆっくりお尻の穴とお腹の筋肉に力をこめなくてはなりません。時には心して脱力しなくてはなりません。限界までお尻の穴を柔らかくするために、力を入れないことに力を入れるのです。四つん這いの潰れたみたいな、折り畳んだ脚の力の入らないような姿勢をとるようシャールが望むので、どんなに背中の内側がびりびりしても、脳天まで強張っても、要はいきかけても、なるべく地面に近いのを保ったままのけぞりました。シャールは餌木のすぐそばにいます。餌木のお腹と地面の間に手を差し入れて、餌木を下から撫でて、やさしい声かけをします。卵があと半分で生まれるとか、卵のお肌を餌木の穴の肉が包んで動いている様子とか、わかりやすく言葉にします。僕はここにいて、見ていて、興奮していると伝えるのです。飼い主が大きなペットにするみたいに、ぱんぱんのお腹をシャールがさすると、不安なんてなくても安心します。セックスの渦中では不安も安心も見分けのつかない同じ大きすぎる穴になります。餌木の、不安なんてないけれど、安心だってない生き様に似ているかもしれません。シャールが餌木の尻尾の付け根を執拗にくりくりつまんで撫でるので、お尻を高くして反った挙句、最後の一つはタイルの地面に着地して割れてしまいました。シャールはあーあと言いました。シャールは卵の残骸を人差し指でつつき、かきまぜました。シャールは餌木の背中の真ん中に、手の甲の硬いところを滑らせて、餌木は息を飲みながら腰をびくびくさせます。餌木は大きくてあったかいため息をついて、四つん這いの自分の足の間の奥へ手を伸ばします。足元に転がった卵に手を伸ばします。無事だった卵を探り当て掴んで、親指に特に力を入れて、握り潰しました。餌木は四つん這いが小さく縮こまって痙攣のような動きをしました。シャールは目をぱっちりさせます。シャールが餌木を黙って見ている間に、餌木は四つん這いをやめました。シャールが姿勢を変えずに、顔の向きだけで餌木の立ち上がるのを見上げて、首が痛いくらい上にある餌木の逆光のかんばせに注視していたら、餌木は硬い靴底を卵に引っ掛けて、最後の無事な卵を割りました。ひとりぼっちで手のひらに出したつまらない精液を洗い流すのと同じことでしょうか?シャールには違うとわかりました。本物の卵だったものを、餌木は潰れても潰れてももっと踏み潰すので、シャールはもう一度あーあと言いそうになりました。少し焦って青い顔したシャールを餌木は見ないで脚を動かします。あんなに、後も先もないほど声をあげて楽しんでいたというのに。ごっこ遊びの中で餌木が孕んだ本物の卵は餌木の靴底と座り込んだシャールの膝をべちゃべちゃの台無しにしています。
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