シャールはバスで移動することが好きなのと、結局バス道辿れば、目的地があれば目的地に、なければ面白い場所に着けるので、意味無くバスに乗り込みます。レクトはそうではありませんしグレブも聖もそうではありません。彼らは目的地があれば空を行けばいいのですから。シャールは地名を好んでいます。「プラットリンバンサイテス」「目前」「漕代」「マリリンバンク」「色裏喩香」「音女」「池底湖」「鳥居小路横丁」「空泉」「兎丸院」「学」「疲塚 」「クラストへドア」「誰衆林」「外界前」たくさんの地名が言えるので、ウスルに道を教えることも少なくありません。情景の赤を想像する前に、赤という文字によって脳味噌の中が一瞬赤に占拠される、シャールはバス停につけられた地名を見て、それと同じことがもっと微細な起伏で脳みそを撫ぜるのを楽しんでいるのです。シャールは固有名詞を好んでいます。人の名前も。地名も。グレブがナイフを集めていたりするので、シャールもそれに倣って固有名詞を集めるコレクターになろうと考えました。聖はシャールのその考えを褒めました「紅葉狩りみたい」だと。その時シャールは、聖にミルクティーを淹れてあげて、聖といっしょにいました。二人で、その場にいないグレブの話をいっぱいしました。グレブがオルロレンチと紅葉を見に行ったとか、グレブの過去の餌のひとりがバス運転手の傘持ちになりグレブにあいさつに来たとか、グレブが出てくる話をいっぱいしました。朝でした。聖が早くに起きてきたから、驚いた日でしたから。聖とグレブは基本的に昼過ぎまで寝ているのです。朝は大抵シャールとレクトしかいません。その日はレクトとグレブが外出していて、聖が早起きだったから、シャールは一日中、聖といました。
「バス好きだよ。」
「なんで使わないんでしたっけ。」
「直接乗りたくない。」
聖はシャールの話からバスには乗れる、とも付け加えました。シャールは、乗りたくないって感覚はわかりませんでしたが、シャールの話からバスに、という感覚はわからなくはありませんでした。赤という字が赤の経路になるのとちょっと一緒で、大きく違うのでしょう。シャールと聖はずっとうだうだとしていました。どうせ1日分しかうだうだできないからね、と言って。ずっとお互いリビングにいて、適当に作ったご飯をちょっと食べて、話したり、映像作品を楽しんだりしていました。空を飛びたいとか、外界前の向こうにこの前行ったとか、大抵、シャールが話をしていました。聖が質問をするからです。聖は聞いているのか聞いていないのかわからない声で返事をするので、シャールも大したこと話す必要がなくて楽でした。

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