「私を見てた、って言ってたじゃないか」驚くほどたどたどしい発話でしたが、言ってしまって、クラクラしました。それでも言うべき、言ってよかったことでした。ラバランの眠る顔に、性器の側面が引っかかるのを、暗い部屋ですが、青くゆるい照明を頼りに、努めて見ました。腹が立ちました。ラバランは眠っています。完璧に。セリだから。なのでラバランは悪くありませんが、今は、腹が立つものにはそのまま腹を立てる段階なのです。このラバランがウスルを見ていたと言いました。この目で、いつも見ていた、と。この男の眼球には、いつかおのれの精子を塗りたくってやりたかった。言語化されていなくても男の子なんてそんなものです。精液とはそういうものです。ウスルはラバランを殆ど睨んでいました。ウスルは、ラバランが寝ているなら、荒い息を露ほども隠しません。そういうしとやかなのは、やめました。今はなるべく聞こえるように、刷り込むみたいにわざと、息を荒げます。精液と同じジャンルのしぐさです。ウスルはラバランの顔に遠慮なく擦り付けて、勝手に高まって、寝ている瞼を引っ張って、眼球にとろとろ滴らせました。左目が終われば、右目の瞼を引っ張って、摘むみたいにすくい上げたとろとろを垂らしました。セリは寝てしまえば起きないから。その手で、ベッドサイドにあるラバランの眼鏡を触って、精液を付着させました。寝ているラバランにすることが日に日にエスカレートする理由はラバランにあります。何も言わないのです。それは新しく発見した異常性でした。ラバランが行動を起こすことしか今まではなかったから、ラバランに何かするとラバランがどうなるのか、ラバランですら知らなかったようです。朝起きて、ウスルの精液が口腔にあっても、胸にあっても、真横にいるウスルに毎日同じように同じ顔で「おはよう」とだけ言います。おはようと言って、少し震える手でベッドの脇のハンカチを手にして、拭う。目も合わさずに。拭うなと言えば拭わないまま、精液塗れの眼鏡をかける気すらします。ウスルは舌打ちをしました。ラバランは今まで、ウスルのしてきた悪い事をきちんと指摘してきました。だってラバランがウスルを買っていたから。はじめに指摘してお仕置きして、指摘してご褒美してきたのはラバランです。だってラバランがウスルを買っていたから。こんなに悪い事をしているのになぜ今更許すか、ウスルには納得ができません。だってラバランはウスルを買っているのですから。ラバランが何かに戸惑って震えているのはわかります。それが何かは分かりにくくされているようで不可解な日々が続きます。ラバランは体の型番の持つ気絶を思わせる完全な入眠に甘えています。明日は、お前の身体を勝手に使って興奮して精液塗りつけてる男がいるんだぞって胸ぐら掴んで、言ってやってもいい。そしたらどんな顔するのでしょうか?何を言う?何も言わなければ、引っぱたいてもいい。ウスルは自らの性器をラバランのハンカチで拭いました。

190917