「本当にきちんとした方だったんですね」
頬のしずくをすくう気持ち悪い手が振ってくる
触れないでと口にする代わりに深く目を閉じて涙を逃がす
「きちんとした被害者がいてよかった。あなたみたいに有名で確定した被害者がいて。ここの仕組みではみんなが救われてもおかしくなかった、ですよね?あなた詳しい、はずでしょう。あなたみたいなのがいてよかった……あなたのそれは餌木さんの置き土産かな。だとしたらあなたはブロキマナクじゃなくて餌木さんの創作物ですよ」
どうして平気なの
どうして平気じゃないの
どうしてこんなに渇望するの
どうして心から守りたいものがあるの
どうして救われてほしい人がいるの
どうして救われてほしい対象があるの
目指したいあり方があるの
誇り高き紳士であれって、言いましたね。
私はなれないけれど、それに心から頷けるのです
心から
「ご自分を、救われて当たり前だと思う?」
「思わないんでしょう」
「僕は思う」
「僕がヒーローで悪魔だからでもなければ、あなたがヴィランで天使だからでもない」
「あなたの愛する人はあなたの不幸を望むひとに化けるよ」
「あなたの守りたいものはブロキマナクの外で、無力なまま」
「諦められないのですよね」
「あきらめられない……いいですね、僕は僕以外の誰にも、あきらめてほしくないです」
2024/05/10